"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

2014-01-01から1年間の記事一覧

20140607 --768

かの者は過去を糧に立つという。己がこれまで歩んできた枝に咲く花、実る何某を確かめ自信へと変える。たとえば、人は高く跳ぼうとする時、自然踏み込みを深くする。それと同じように、より強く立つ為に深く過去を浚う必要が(それが多大な痛みを伴なうとし…

20140604 --767

注連縄の手前で術師は忌々しそうにそれを見上げた。『向こう側』では封印札を全身に貼られた者が、壁に四肢を打ちつけられている。「何か用かね」壁の者は自身の状況など全く気にしていないといった風情で、いっそ楽しげに訊いてきた。「適応者──生贄でも、…

20140517 --766

『緋岩は彼岸と悲願に通ず』。街道手前にある街での、古老の語りを思い出す。この街道では魔物の襲撃によって死ぬ者が多く、金がなくて隊商に入れぬ単独または少人数での移動を余儀なくされる者らは生還の悲願を胸に街道を走らねばならない。これはそれを由…

20140517 --765

それは恐らく彼らに「それがある」と気づかれる前からそこにいた。街道の先。米粒のような騎影。距離がまったく縮まないところから進行方向は同じ。時折見失うものの気がつけばまた前を行くので進む速度もほぼ同じなのだろう。しかし、この緋岩街道を一騎で…

20140517 --764

緋岩街道西端を行く、大荷物を載せた二頭の馬と、それを牽く二名の男。現在、目的地まで約四日の位置、魔物多きこの地を無謀にも隊商を組まず、寝る間も惜しんで夜すら進む。急ぎ歩を進める彼らの遥か前方、暁光がほのかに朝の到来を匂わせる、そんな道の上…

20140504 --763

世界の果て、断崖の桜。新緑に彩られた枝の下、散った花びらがさながら小さな土饅頭のようにこんもりと積もっている。──いや、花びらだけでこうはなるまい。実際そこには、何かがあるのだ。やがて時が経ち、花びらの朽ちると共に土に還り、ついには桜の糧と…

20140423 --762

太陽が西の空を駆け下り、世界は音もなく暗闇の衣を纏った。闇の濃くなるに伴い、ひとつふたつと星が点り、東の空を振り返れば象牙色の月が顔を覗かせる。夜である。物語なら、乙女が窓辺で空を見上げて心寄せる者を思い描き、少年が未知の世界への憧れを夢…

20140414 --761

世界の果て、断崖の桜の根元。黒髪の子供が二人、手を繋いだ状態で仰向けに倒れている。上から降る花びらが彼らをじわじわと覆い隠していく。彼らはピクリとも動かない。面差しのよく似た、男女の、まだ十にも満たぬだろう二人。その痩せこけた頬に、ひらり…

20140318 --760

「『ほう』ってなんだ?」本を開き、覚えて間もないという文字を指でなぞりつつ音読していたソレが問うてきた。「ほう? ああ、法か。人が集団で円滑に生活する為に作った約束みたいなもんだ」「生活の為の約束? なんと、人という生き物は約束がないと生き…

20140304 --759

流した涙が宝石に変わる妖精は、頭部だけになり、瓦礫の下に埋もれても、涙を流して宝石を生み続けた。そのスピードはどんどん増していく。宝石は瓦礫を押しのけ、逆に瓦礫を飲み込み、そして通りに溢れ、川のように流れた。やがて街を飲み込み、海に達し、…

20140304 --758

流した涙が宝石に変わる妖精は、死してなお宝石を生んだ。美しい宝石は高値で売れた。業者は当初それを喜んだが、しばらくして困り果てる。涙が止まらないのだ。当然、宝石は増え続ける。やがて首を隠した倉庫が、宝石の重みで倒壊してしまった。採取が間に…

20140304 --757

流した涙が宝石に変わる妖精は、どんな拷問にも耐えるようになり、遂に泣かなくなった。それに怒り狂った業者は勢い首を刎ねた。妖精は絶命したが、床に転がった頭部はその目をカッと見開いたままで、何故か大粒の涙を零し始めた。生み出される宝石は今まで…

20140303 --756

流した涙が宝石に変わる妖精は殺された青年の家にいた。見つけたのは闇で稀少生物を扱う業者だった。業者は妖精を連れ帰り、凄惨な仕打ちをしてその涙を得た。苦悶の果てに流す涙はより良い宝石に変わるのだ。「匿ってた奴は馬鹿だな。宝石売った金で用心棒…

20140226 --755

方法が確立するまでに失われた命の数は小国の人口に匹敵、もしくはそれ以上という噂もあった。それほどの犠牲を強いてなおやらなければならない『実験』とは。発案者は言う。「これは、近い将来必ず行き当たるエネルギー不足と人口減少に伴う文明的衰退から…

20140226 --754

実験は困難を極めた。まず被験者らから魂魄を剥がした時点で大多数が死亡、剥がした魂魄を分割した際にその半分が消滅。分割した魂魄の被験者への再移植及び定着時に至っては手順を誤って遊離させてしまった魂魄が定着成功した被験者の魂魄と融合してしまう…

20140213 --753

造られたもの。選ばれたもの。見放されたもの。愛されなかったもの。崇め奉られた末に不浄として虐げられた、その身を器として捧げた運命のこどもたち。引き離されそうになった時、残されるはずだったひとりがもうひとりを連れて逃げた。お前らの勝手な都合…

20140211 --752

雪で世界は白く染まった。今なお空から舞い降りるそれは非情なまでに美しい。そんな中、ぼくたちは歩く。聞こえるのは雪を踏みしめる音ときみのむせび泣く声だけ。他には何も聞こえない。雪は音もなく降るのだなと思った。繋いだ手の温もりが、この世界が幻…

20140204 --751

甘い香りがうっすらと、風に乗って流れてきた。振り向くとそこには梅の枝を抱えた睦月が立っている。「待たせたね、如月」言いつつ襷と共に枝を渡された。「沢山咲いてるけど蕾もあるから、そっちで咲かせて欲しいと思って」「そっか、了解」まだしばらくは…

20140101 --750

鐘の音が大晦日の夜に響き渡る。ようやく年越しの準備を終え、扉の前に辿り着いた。あとは引き継ぐだけだ。やれやれと胸を撫で下ろす。振り返れば今年も色々あった。だけど、辛いことも楽しいことも全部、きちんと来年に届けたい。さ、時間だ。そして師走は…

20131210 --749

画商が店の奥から一枚、絵を出してきた。画布の真ん中に大きいな白円。その周りを黒の絵の具が厚く塗られている。見覚えのあるタッチだ。六枚目だ、と画商は言う。五枚の連作ではなかったのか。「これはだいぶ後、画家が死ぬ直前に描いたらしい」題は《また…

20131210 --748

三枚目と四枚目。縁取る白線が右回りに一本ずつ増えていく。題すらない。五枚目。縁取りは左辺に達し黒を囲んだ。この五枚の絵(と呼んでいいかは別問題として)は連作で、《混沌》は《原始世界》に包み込まれているということを言いたいのだろうか。題は《…

20131209 --747

二枚目。画布の大部分は一枚目と変わらず黒で塗り潰されている。違うのは上辺。端から端まで指ひと関節分ほどの幅の塗り残し……いや、白の絵の具が塗られている。こちらは筆で均一な塗り方だ。作者名はこれにもない。また題名らしきひと言が添えられている。…

20131209 --746

「大切な人が、昔、あるいは今、もしかしたら未来に消えたの」遠い目をして黒髪の少女は言う。「自分以外の誰かの為に戦って、傷ついて、何があっても絶対諦めない、そんな人。わたし、捜してるの」掌の鍵が怪しく輝き出す。「ここには……いないね」言葉だけ…

20131206 --745

一枚目。画布は黒で塗り潰されている。面は均一ではなく、パレットナイフで所どころ厚く、または波打つように絵の具が乗せてあり、それが影を落としてより一層暗い部分を作り出していた。作者名はない。ただ、題名らしきものがひと言添えられている。《混沌…

20131206 --744

どうにも寒いと思ったら夜半には雪が降り出した。軒下で時間を潰していると、息せき切って駆けつける者がひとり。「遅れてすまない、霜月」随分と待ったが、待ち人が彼たる所以を思えば仕方あるまい。「忙しいところ悪いね。あと少し、君に任せたよ」そう言…

20131127 --743

ふと、キー打つ手をとめ、椅子から立ち上がった。静まりかえる夜の谷間、そっとベランダに出る。深呼吸をして肺の中の空気を入れ替えた。ひんやりとしたそれは体の隅々まで行き渡り、そしてこごった心すら濯ぐ。軽く伸びつつ空を見上げれば、火星を従えた月…