"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

断崖の桜

20140504 --763

世界の果て、断崖の桜。新緑に彩られた枝の下、散った花びらがさながら小さな土饅頭のようにこんもりと積もっている。──いや、花びらだけでこうはなるまい。実際そこには、何かがあるのだ。やがて時が経ち、花びらの朽ちると共に土に還り、ついには桜の糧と…

20140414 --761

世界の果て、断崖の桜の根元。黒髪の子供が二人、手を繋いだ状態で仰向けに倒れている。上から降る花びらが彼らをじわじわと覆い隠していく。彼らはピクリとも動かない。面差しのよく似た、男女の、まだ十にも満たぬだろう二人。その痩せこけた頬に、ひらり…

20130326 --693

世界の果て、断崖の桜が月明かりに美しく照らし出されている。「今年は、やけに早いな」「桜は満月に向かって咲くと申しますれば……」「ん? ああ、明日は満月なのか。いやそれにしても一回りほど早いじゃないか」とある主従が枝垂桜を見上げながら、他愛もな…

20120329 --533

世界の果て、断崖の桜のつぼみがほころび始めた。ほのかに紅を混じらせた美しい花を今年も咲かせてくれるらしい。その根元近くに、いつかの老人が先刻より佇んでいる。「お前さんの種な、無事に芽が出たぞ。それだけじゃない。一年でひと一人をゆうに超すほ…

20110413 --347

世界の果て、断崖の桜から音もなく花びらが散る。「次は実が落ちる頃に来るか」老いた男は花びらを一枚手のひらに受け、大事そうに懐にしまった。『場』の痕跡さえあれば、あの男女がくれた世界を渡る力で、いつでもここに来ることができる。「奇跡の桜の子…

20110412 --346

世界の果て、断崖の桜の前に老いた男が佇む。そこへ世界を渡る男がやってきた。「見事なもんだ」桜から視線を外し、老人は男に向き直って言った。「さて、別の世界のおまえさんたちから頼まれていることがある。教えた桜に満足できたら、おまえさんの助けに…

20110405 --345

世界の果て、断崖の桜の前に老いた男がやってきた。「これか」愛おしむように目を細める。都で桜を作り続けてきた男のもとに訪れた旅の男女が、一夜の宿の礼にと話してくれた。聞いたらいても立ってもいられず、家を後継者に託して放浪十年。──遂に辿り着い…

20110405 --344

世界の果て、断崖の桜の前に、剣を持った魔道師がいた。すらりと鞘から抜き、掲げ持つ。「今一人の勇者が旅立とうとしている。その行く先には数多くの困難が待ち受けているだろう。汝が加護を賜りたい」桜の奇跡を宿したその剣が、やがて蒼穹の聖剣として伝…

20100528 --264

世界の果て、断崖の桜が今年も咲いた。季節もなさそうな場所なのに、それでも毎年時期が来れば美しいたくさんの花をつけるのだ。幹や枝、花びらを見ても平凡なものと変わらない。だがこの桜は特別だ。ここに種が辿り着き、育ち、咲く。それはまさに奇跡以外…

20091214 --218

それにしても随分と遠くまで来たのね。そう、ここにいたの。確かにこんなに見事な花が咲いていたら足を止めたくなるかな。満足そうね? これまでの道程が実りあるものだったのかしら。ええ、迎えに来たの。おかえりなさい、貴方。――そして天使は桜の下で横た…

20091213 --216

故郷の戦乱が嫌で逃げ出して数十年。ギター片手に平和を歌いつつ放浪した。そして辿り着いた断崖。先には何もない。世界の果てだった。大きな木が一本。沢山の花が咲いている。見とれていると上から声をかけられた。白い天使が舞い降りてくる。そうか。ここ…

20091213 --215

世界の果てに枝垂桜がある。いつどこから種が飛んできたかわからないが、世界を渡り歩く男が二百年前に偶然立ち寄った時には既に大きく枝を張り花をつけていたとのことなので、樹齢は相当なものだろう。そして今年もまた沢山の花を咲かせ、そよぐ風に花びら…