"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

守護者戦記

20141026 --774

厚い雲が月光を阻んでいた。周囲を照らすのは従者が持つランプの明かりだけ。この湿度では雨がいつ降ってもおかしくない。雨除けの皮衣を背後の荷物から出しながら、騎乗の娘は遠くに聞こえる梟の鳴き声に耳を澄ます。首都を出立してからもう六日か。目指す…

20140623 --771

獲物に向かって急降下する妖鳥に横殴りの突風が襲いかかる。いや、実際には風など吹いていなかった。そう感じさせる何かが起きたのだ。驚いた妖鳥は体勢を整えようと羽ばたいた──羽ばたこうとした。軽過ぎる手応えに周囲を見渡す。なんと右翼が付け根から失…

20140615 --770

彼らのはるか頭上で妖鳥は緩やかな弧を描く。豪雨や雷鳴もむしろ自らを引き立てる演出と思っていそうな、優雅ささえ見出せる飛び方だ。人間二人と馬二頭、その気になればひと呑みで終わる。あとは気分とタイミングの一致を待つだけだった。そして、その「時…

20140610 --769

緋岩街道上空に立ちこめる暗雲は彼らの上に容赦なく雨を叩きつけた。轟く雷鳴にかぶさるように、何某か、生き物の鳴き声が耳に届く。空腹が過ぎると山をも飲み込むと言われている伝説の、隊商も遭遇したら運の悪さを呪うしかないといわれる巨大な妖鳥が近づ…

20140517 --766

『緋岩は彼岸と悲願に通ず』。街道手前にある街での、古老の語りを思い出す。この街道では魔物の襲撃によって死ぬ者が多く、金がなくて隊商に入れぬ単独または少人数での移動を余儀なくされる者らは生還の悲願を胸に街道を走らねばならない。これはそれを由…

20140517 --765

それは恐らく彼らに「それがある」と気づかれる前からそこにいた。街道の先。米粒のような騎影。距離がまったく縮まないところから進行方向は同じ。時折見失うものの気がつけばまた前を行くので進む速度もほぼ同じなのだろう。しかし、この緋岩街道を一騎で…

20140517 --764

緋岩街道西端を行く、大荷物を載せた二頭の馬と、それを牽く二名の男。現在、目的地まで約四日の位置、魔物多きこの地を無謀にも隊商を組まず、寝る間も惜しんで夜すら進む。急ぎ歩を進める彼らの遥か前方、暁光がほのかに朝の到来を匂わせる、そんな道の上…

20130412 --702

時間魔法か。多少なら使える。だが、あの『時の魔女』のように誰かを今と違う特定の時間に送るなどといった緻密なことはできない。周到な準備をすれば別だが、咄嗟にできるのはせいぜい自分の手の届く範囲の時間を操る程度だ。時間軸を飛ぶには力が足りぬ。…

20130309 --680

大森林に点在する、一見すると木の生い茂る急峻な山、実は樹齢何千年という巨樹だった。そしてそれに巣を作る、これまた巨大なクモがおり、また驚くべきことに、その巣糸を編んで空中に土台を作り、街を築いて住む者達がいた。人はクモの名を冠して彼らを「…

20130307

時は深夜。生き物は皆夢の中。空に浮かぶは上弦の月、雲の合間から時折顔を見せては、街道の遥か先に横たわる山脈をほのかに映し出す。この季節にしては生ぬるい風が大地を撫でて枯葉を巻き上げる。心底に潜む不安をざわりと掻き立てるように。そんな道の上…

20130224 --674

「あれをイネビリア足らしめているのは宿す魂の変異のみ。ならば変異前の状態に巻き戻せれば、例の呪縛は解けるのではないか?」「理論上ではそうなります。魂核は我々と同じもののはずですから。ですが……」「何か問題でもあるのか?」「ええ。本人が、それ…

20130213 --669

やってきた迎えの者に幼子を託す。足手まといにはならないと初日に半泣きで宣言してから数日、本当によく歩き、予定より一日早く指定された合流地点に着いた。「頑張ったな」「だって、約束、しましたから。送っていただきありがとうございました」「おう、…

20130205 --658

「寝ないんですか?」焚き火に枯れ枝を加えていると、火を挟んだ向こう側から声をかけられた。「あ、起こしちまったか。すまん」モゾモゾと毛布の塊が起き上がると、ぽこっと小さな頭が現れた。「気にかけてくれてありがとな。ま、俺は大丈夫だから寝直して…

20130131 --653

「では、おやすみなさい」と言い、幼子は毛布をかぶった。小さく丸まっている様はさながら闇に怯えながら眠る小動物のようだ。本来ならば暖かい家の中で、母親の優しい子守歌に包まれていてもおかしくない年頃だろうに。本人曰く、母親とは死別、先日まで首…

20130118 --650

やっちゃったと思った。無意識に人の心を読むのは悪い癖だ。シスターにも何度そのことで叱られたか。ああ、またいつも通り、気味悪がられて避けられてしまうのかな。「んなことねえよ」いつの間にか肩に置かれていた大きな手が離れた。「読まれないよう俺が…

20130114 --648

「足手まとい、ですか」俺のあとに続く幼子がポツリと呟いた。おい、俺は声に出して言ってねえぞ。「すみません、迷惑ですよね、わたし」振り返る。世の画家達が見たら思わず筆をとるに違いないと思わせるほどの、見事なしょんぼりとした表情の幼子が立って…

20130105 --646

歩み寄る幼子に冷徹な視線を落とす。師匠は何故斯様な足手まといにしかならぬ者を連れて行けと命じられたのか。幼子が無垢な目でこちらを見返す。苦手、なのだ。自分のこれまでを見透かされているようで。……ああ、そういうことか。「つまりこれも修行の内っ…

20121115 --604

或る者は願う。幻でもいい、幻でもいいから会いたいのだ、と。また或る者は願う。話せぬのなら、触れられぬのなら幻などいらぬ、と。今宵新月、空は雲に覆われ星の光もない闇夜。馬を走らせ往く黒衣の騎士の前に、音もなく舞い降りたそれは、はたして幻か、…

20121023 --599

時は深夜。生き物は皆夢の中。空に浮かぶは上弦の月。雲の合間から時折顔を見せては街道の遥か先に横たわる山脈をほのかに映し出す。この季節にしては生温い風が草木を撫でて枯葉を巻き上げる様はまるで心底に潜む不安を掻き立てるかのようだ。そんな道の上…

20121014 --595

酒器一式を男の傍に置くと、待月堂の堂主は一礼してその場を辞した。いつもなら部屋の隅に控えて世話をするのだが、今宵の訪問者はひとりを望んだ。新月間近の夜、空には雲が広がり、所々で星が瞬くのが見えた。風は、遠くの薄を僅かに揺らした。 #twnovel #…

20121005 --591

辺境警備隊はものの数分で壊滅した。襲撃直後に発した要請に従ってこの辺りを担当する彼らがきたのだが、その予想外に早い全滅は、たとえ増援が到着したところで、守るべき民の損壊した遺体との対面しか生み出しそうになかった。故に、彼女が現われた時の人…

20120929 --587

丸く満ちかけた月を追うように八頭立ての長距離馬車が街道を走る。天井も高く前後に長いワゴンに、しかし乗客は大柄な若い男が一人のみ。──いや、もう一人。最後尾の乗降口、そのステップに座り足を外に投げ出している金髪の少女がいた。月光を受け、長い金…

20120915 --585

「でも、たどり着けるかどうかはあなた次第」わたしに手を差し伸べながら、時の魔女はそう言った。「あなたの思いが強ければ強いほど、望む時を手許に引き寄せるわ」深く頷いて魔女の手を握る。「さあ、いってらっしゃい」そしてわたしは、祈るように目を閉…

20120912 --581

(……ああ、違う。言い訳なのだ。これも。結局は。綺麗事をいくら並べ立てようとも、根本的な部分にあるのはただの強くて単純な衝動だ。わたしは、ただ、あの人の顔が見たい。声が聞きたい。触れたいのだ。過去に行くことで、もう一度あの人を失うことになっ…

20120912 --580

ただ、過去に戻り、そこで何が起きていたかを見れば、もしかしたら抱えていく過去の重さを変えられるかもしれません。そういう意味では過去に戻ることは有意と言えるでしょう。……お願いします。連れて行ってください。わたしを、あの時、何があったのか確か…

20120912 --579

あなたはおっしゃった。これは絶対ではなくチャンスだ、と。やり直してもいいしやり直さなくてもいい、と。時間を自在に操る強大な力を持つあなた自身が、なのに、やり直しを選んでいない。それは、過去に戻ることが本当の意味でのやり直しではないと知って…

20120912 --578

いいえ、違います。それはやり直しではありません。たとえ過去に戻っても、それはその過去から続く未来が変わるだけで『今ここにいるわたし』には繋がらないのです。『わたし』の過去は既に確定しています。耐え難い過去だとしても、わたしは抱えて先に進ま…

20120903 --ボツ

いいえ。それは違います。過去は変えられません。たとえわたしが過去に戻って納得のいく結果を得たとしても、それはやり直しではありません。変えてしまった過去の先に、今ここにいるわたしはいないのです。でも、過去を見直すことで、納得して先に進むこと…

20120903 --577

わたしがここに、この瞬間に来たということは、絶望するあなたにやり直すチャンスが生まれたということ。ただね、これはチャンスであって絶対ではないの。やり直してもいいし、やり直さなくてもいい。辛い過去を抱えたまま生きるか、違う過去に上書きして生…

20120122 --498

街道を大型の長距離馬車が進む。都市と都市を結ぶそれは、いつもなら満席でそれなりに賑わうのだが、今はただ二人の乗客を運ぶのみ。馬の蹄が地面を蹴る音と一定のリズムでがたつく車輪の音が、青空に吸い込まれていく。それ以外の音はなかった。風も、空を…