"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

20140423 --762

太陽が西の空を駆け下り、世界は音もなく暗闇の衣を纏った。闇の濃くなるに伴い、ひとつふたつと星が点り、東の空を振り返れば象牙色の月が顔を覗かせる。夜である。物語なら、乙女が窓辺で空を見上げて心寄せる者を思い描き、少年が未知の世界への憧れを夢…

20130920 --730

徒に過ぎた時間の分だけ、貴方のぬくもりも遠ざかる。現在も、過去も未来も探したけれど、符丁ひとつ見つけられない。己の無力さに肩を落とすわたしの上を、満月が横切ろうとした。思わず掴もうと手を伸ばす。できやしないのに。だから。代わりに。わたしの…

20130920 --729

降り注ぐ光は差し伸べられた貴女の手のようだ。探し続け、待ち続けた幾年でできた溝を埋め尽くそうと、それは蒼白く寒々しいはずなのに、仄かに暖かみすら感じさせる。己が手で受けようとするも、やはりそれは掴めるものではなかったが。月見て流す涙は、地…

20130919 --728

あの人、わたしと同じように月を見上げてくれるかな。時間の流れが違うほど遠くでなければ、きっと今夜は素敵な満月、祈りを捧げたくなるほどの美しい月。本当はね、一緒に見上げたい。でも、わたし、あの人みたいに上手に世界を捲れなくて会いにいけないん…

20130624 --716

空には零れ落ちてきそうな満月が出ているらしいが、生憎の曇り空がそれの観測を許さず、あまつさえ雨まで降らせてくる始末。「つまらない」そう言って口を尖らせる君を見て、ふと思いついたことに苦笑する。目敏く見咎めた君が怪訝な顔を向けてくるが怒られ…

20120901 --575

蒼い月の下。海沿いの道の上。黒騎は、その歩を止めた。優しい潮騒に混じって、音ならぬ音、歌ならぬ歌が聞こえたからである。ほんの僅か、よくよく耳を澄まさねば捉えられそうにないそれは、しかし何らかの形を成す前に空に溶けていく。まるで手を伸べたと…

20120831 --574

蒼い月の下 くるくる踊る 波打ち際を 風と遊ぶ さあ歌いましょう 踊りましょう わたしを探すあの人に わたしが探すあの人に 同じ月の光が 同じ風の歌が 降り注ぎますように 届きますように 見つけられますように 蒼い月の下 くるくる踊る いつか聞いた あの…

20120507 --544

こんな夜中にドライブに誘ったのも柄にもなく饒舌だったのも近所を回るはずが勢いで海まで車を走らせたのも浜辺で防波堤に並んで座って波の音を聞いたのもあんまりにも綺麗な横顔に見とれちゃったのもカミカミで君に告白しちゃったのも全部今夜の月がいつも…

20120506 --543

のしかかってきそうな大きな月が窓枠の向こうで幾万の星を従えて往く。手をのばせば掴み取れそうなそれは、しかし、結局は誰のものにもなりはしないのだ。ふと視線を転じて、この胸でうたた寝する君を見る。月光に淡く浮かび上がる白肌は、いっそ触れえざる…

20120505 --542

森の奥。そこだけ、まるで誰かが誂えた舞台のように、ぽっかりと土が剥き出している場所がある。真ん中に古い切り株が一つ。そしてそこには少女が一人、軽く腰掛け歌っている。聞くは物言わぬ木と空を往く月。彼女は言う。ここは舞台ではない、と。木々に閉…

20120505 --541

荒野のど真ん中に、ただただ真直ぐのびる一本道があった。見渡せば草木無く、ここが常世である証は、人工的に作られただろうその道のみ。空にはいつもより重そうな月が我が物顔で浮かび、地の果てまでも映し出すかと思えるほどに煌々と輝いている。そんな月…

20120410 --535

夜空に満てるは月の皓、受けて吼えるは天の狼。虚ろに照らす未知なる道先、兆し見ゆるは黄金道。地の果てに立つ、其は枝垂れて誰を待つ。終の運命に降り積もる花、月明かりの下断つ退路。朗々歌いて方々惑い、咆哮響いて滔々流る。流浪放浪幾星霜、独り往く…

20111211 --486

雲間の月光がまだらに地面を染める。馬上で月を見上げる男が時折漏らす鬼気を、注意深く観察する。いっそ狂気に流されたほうが楽だと彼はここに来る途中で言った。彼をしてそう言わしめる苦痛とは。想像だにできない何かを抱えている彼を、少し離れたところ…

20111210 --485

じわりじわりと、影が月を蝕む。それは心底の奥の奥に眠る、本来の彼を象徴するかのような狂気を揺さぶる。何度これに耐えてきたかはもう数えようがない。が、何度耐えてきても一向に慣れない。毎回ぎりぎりのところで耐えている。──センは雲の間から顔を出…

20110616 --382

同時刻、同場所。ロジェは街道脇にいた。木に寄りかかり、暗赤色の月の下で一人何かに耐える男を見守っている。保険、だ。もし男が己を制御できなくなった場合、控えている彼が手を下す。政府の、そして守護者総帥からの厳命であり、また今耐えている男自身…

20110616 --381

夜明け前の街道にセンはいた。満月が影に食われていくのを馬上から見つめる。やがて浮かぶ、暗赤色の月。手綱を握る己の左手にゆっくりと視線を移した。微かに震えている。太陽光という祝福を受けぬ月の光。それは彼の中の普段は抑え込まれている因子を刺激…