"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

2021-01-01から1年間の記事一覧

20141210 --783

「戻りなさい」声は告げた。「次に目覚めた時に君達はもうここを思い出せない。だがそれは正しい。忘れられるというのは人に与えられた特権だ」少年は瞬きをし、周囲を見渡してから言った。「仰る意味がよくわかりません。それにここには僕しか」言い終わる…

20141210 --782

その声は男であり女であり、老いた者を思わせながら幼くもあった。いくつかの問答をこなすと、声は次が最後の質問だと言った。「本当は何が欲しかったのだ」しばらく考え込んでから少女は答えた。「場所が欲しかった。生きる為の時間はあったから。ただわた…

20141210 --781

その声は男であり女であり、老いた者を思わせながら幼くもあった。いくつかの問答をこなすと、声は次が最後の質問だと言った。「本当は何が欲しかったのだ」しばらく考え込んでから少年は答えた。「時間が欲しかった。生きる為の場所はあったから。ただ僕に…

20141204 --780

世話役の研究員に連れてこられた部屋には自分よりも幼い女の子がいた。不意の登場に驚いたのか怖かったのかはわからないが、慌てて彼女に付き添っていた女性研究員の後ろに隠れ、そっとこちらの様子を窺ってくる。その一連の動作は、以前本で読んだ小動物の…

20141128 --779

実験を生き延びたのは2人。ひとりはある財閥本家の後継者だったが病弱を理由に継承権剥奪の上で遠縁に養子に出され、さらにそこからも厄介払いの如く今回の募集で研究所に放り込まれた7歳の少年。もうひとりは貧民街で口減らしに売りに出されていた、元の家…

20141126 --778

『霊子力が無限のエネルギーではないと判明した今、求められるのは如何に霊子の減少を抑えるか、または増やしていくかという打開策だ。効率の良い運用方法も求められるだろう。実験するに既存の法律が足枷となっているなら、財界から政府に圧力をかけさせろ…

20141126 --777

七歳までは神の内という古い言い伝えに奇跡的に辿りついたある科学者が、自説の裏づけの為に世界中から七歳以下の子供を何らかの方法で集めたのが半年前。長年共に過ごしてきたはずの助手をして「狂気に彩られた世にもおぞましき実験」と言わしめた人体実験…

20141029 --776

月夜に歌えばしらじらと。雨に歌えばはらはらと。雪に歌えばゆらゆらと。夕陽に歌えばあかあかと。風に歌えばさらさらと。雲に歌えばもくもくと。星に歌えばきらきらと。今日も歌声心地よく、終わらぬ道をただふたり。 #twnovel posted at 18:07:05

20141029 --775

「運命とは変えるものか、従うものか、逆らうものか、任せるものか。お前は、どれを選ぶ?」やけに大きく見える満月を背に、男が右手を差し出す。恐らく、この手を掴んだ瞬間から、動き出すのだ。ひとつしかないと思われた先が実はひとつではなく、無限に存…

20141026 --774

厚い雲が月光を阻んでいた。周囲を照らすのは従者が持つランプの明かりだけ。この湿度では雨がいつ降ってもおかしくない。雨除けの皮衣を背後の荷物から出しながら、騎乗の娘は遠くに聞こえる梟の鳴き声に耳を澄ます。首都を出立してからもう六日か。目指す…

20141025 --773

運命とは苛烈でしょうか。未来とは暗澹ですか。誰の上にも、どこにいようとも光は注がれるはずなのに、何故我々にそれは与えられないのですか。望むことすら罪ですか。心の中で求めることも許されず絶望を啜り無力を糧に生きろ、と。そんなもののどこが生き…

20141025 --772

わたしは月に祈る。その光が照らす先にいるはずの貴方が、道に迷うことのないように、と。運命という重い足枷によりこの夜の底から動けないわたしの許に、鎖を断ち切る剣を携えた貴方が、無事に辿り着けますように、と。わたしは月に願う。それがすべての、…

20140623 --771

獲物に向かって急降下する妖鳥に横殴りの突風が襲いかかる。いや、実際には風など吹いていなかった。そう感じさせる何かが起きたのだ。驚いた妖鳥は体勢を整えようと羽ばたいた──羽ばたこうとした。軽過ぎる手応えに周囲を見渡す。なんと右翼が付け根から失…

20140615 --770

彼らのはるか頭上で妖鳥は緩やかな弧を描く。豪雨や雷鳴もむしろ自らを引き立てる演出と思っていそうな、優雅ささえ見出せる飛び方だ。人間二人と馬二頭、その気になればひと呑みで終わる。あとは気分とタイミングの一致を待つだけだった。そして、その「時…

20140610 --769

緋岩街道上空に立ちこめる暗雲は彼らの上に容赦なく雨を叩きつけた。轟く雷鳴にかぶさるように、何某か、生き物の鳴き声が耳に届く。空腹が過ぎると山をも飲み込むと言われている伝説の、隊商も遭遇したら運の悪さを呪うしかないといわれる巨大な妖鳥が近づ…