"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

SIDE-SEN

20130412 --702

時間魔法か。多少なら使える。だが、あの『時の魔女』のように誰かを今と違う特定の時間に送るなどといった緻密なことはできない。周到な準備をすれば別だが、咄嗟にできるのはせいぜい自分の手の届く範囲の時間を操る程度だ。時間軸を飛ぶには力が足りぬ。…

20130307

時は深夜。生き物は皆夢の中。空に浮かぶは上弦の月、雲の合間から時折顔を見せては、街道の遥か先に横たわる山脈をほのかに映し出す。この季節にしては生ぬるい風が大地を撫でて枯葉を巻き上げる。心底に潜む不安をざわりと掻き立てるように。そんな道の上…

20121023 --599

時は深夜。生き物は皆夢の中。空に浮かぶは上弦の月。雲の合間から時折顔を見せては街道の遥か先に横たわる山脈をほのかに映し出す。この季節にしては生温い風が草木を撫でて枯葉を巻き上げる様はまるで心底に潜む不安を掻き立てるかのようだ。そんな道の上…

20101015 --304

騎士が馬から降り、ルドルフと対峙する。「さて。儂らはお前さんを何と呼べばいい?」暫しの沈黙の後、騎士は答えた。「セン、と。……祖母もそう呼んだ」その返事にルドルフは満足そうに頷き、右手を差し出した。「ようこそ、セン」今、ひとつの旅が終わり、…

20101014 --301

漆黒の騎馬が首都大門に辿り着いた。迎えるは守護者総帥ルドルフ・モジュール以下5人の守護者だ。「よく来てくれた」ルドルフが声をかける。「この地が、お前さんの旅の終着点となることを祈っておるよ」騎士からの返事はない。ただ、代わりのように、一陣の…

20091119 --157

「……また来る」墓に背を向け歩き出す。守護者になれば十中八九イネビリアを手にかけることになるだろう。同族殺しだ。だがその業を背負う覚悟は、ある。そうしなければ取り戻せぬのなら喜んで背負おう。恐らく求めるものはその先に。――やがて青年は、闇に溶…

20091118 --155

取り戻したい……何としても取り戻さなければならないものがある。ならば迷うまい。根底にあるこの思いを忘れなければ何だってできるはずだ。そうして400年近く、幾つもの世界を渡ってきた。守護者になる。人として生きる為に、ではない。手段だ。己が望み、決…

20091118 --154

未来の位置にあった『恋人』のカードが示すは「選択」。そしてその選択では直感による決断が迫られる。老婆の占いは不思議と当たった。それはイネビリアである自分が見ても感心する程だった。……そうか。悩む期間は終わったのだ。運命を己が直感で選択する「…

20091117 --153

「人ととして生きる道もあるんだよ」老婆はテーブルにカードを並べながら言った。「それともイネビリアは必ずイネビリアらしく生きなきゃいけないのかね?」最後の1枚を置いた。眼鏡の奥の目が細くなる。「現在の位置に『月』。未来に『恋人』。今はまだ……悩…

20091117 --152

風が吹き、櫨の枝がざぁっと音を立てて揺れる。青年は顔にかかる髪を払い空を見上げた。たくさんの星が葉の隙間から明かりを落としている。「人として生きてみないか、か」呟き、ゆっくりと視線を墓に戻す。「あなたと同じことを言う人間がいたんだな」脳裏…

20091115 --150

「人として生きんか」その言葉はイネビリアの予期せぬものだった。「お前さんと儂の違いがどこにあろうか。育ての親の死を看取りその葬儀にまで心を配る誠実さが、人のものでなくてなんであろうか。ただお前さんは持って生まれた魂が周りと違っていた、それ…

20091115 --149

唐突な提案に、さしものイネビリアも驚いている。「守護者になれば過去に現われたイネビリアの情報を得るのも容易い。お前さんの話にあったイネビリアの情報があるかもしれん。そして守護者独自の特権も色々ある。……いやそんなことよりもな」ルドルフは一旦…

20091115 --148

少なくともこのイネビリアと自分との違いは、宿す魂だけではないか。そう思えてならなかった。(もったいない)話をすればするほど彼の人間くささが見てとれて、傲慢かもしれないが、このままにしておくのはもったいない気がした。「守護者にならんか?」思…

20091115 --147

ルドルフははっとなった。目の前のイネビリアに対して覚えていた違和感。それは彼の言葉を濁す態度。迷い、躊躇し、言葉を選んで話す彼の仕草が、人間そのものだったからだ。ルドルフが今まで対峙してきた数人のイネビリアに、そういう逡巡するような者は誰…

20091115 --146

イネビリアは終始誠実な態度でルドルフと話した。ただ、答えたくないこともあるようで、時折言葉を濁した。言えないことは誰にだってあるものだと、ルドルフも無理には聞かなかった。そこで気づく。いつの間にか彼をイネビリアとしてではなく、ひとりの人間…

20091114 --145

何故話がしたいと言ったのか。興味や好奇心という単語も当てはまるのだが、その時ルドルフの心を最も占めていたのは、目の前にいるイネビリアから覚える違和感だった。その闇い魂もビリビリと迫る鬼気も、間違いなく彼が人間ではなくイネビリアであることを…

20091113 --144

「礼を言われるようなことでもないんだが」ルドルフはぽりぽりと頭を掻いた。「では、失礼する」「あ、待ってくれ」辞そうとしたところを呼び止められ、今度はこちらが怪訝な顔をする番だった。「少し話がしたい。……構わんか?」イネビリアと話がしたいとは…

20091113 --143

驚くのも無理はない。彼の「時」は正しく流れ、俺の「時」はある程度のところで止まった。《人の内に生きる闇》イネビリアとは、しかしそういうものなのだ。人のようでいて、人とは違う。「……知ったのが数年前だったので、それまで2度も会っていたのに礼も言…

20091113 --142

男は守護者ルドルフと名乗った。そうか、この男が。「守護者ルドルフ、あなたに会えたら礼を言おうと、思っていた」男が怪訝な顔をするので説明を加えた。「80年ほど前のことだ。俺を匿い育てたあの人の葬儀で……世話になった」ルドルフは驚いて言葉が出ない…

20091112 --141

大陸北部のとある地下迷宮。その魔物を倒したこと自体に理由はない。調べ物をしていたら急に襲い掛かってきたので返り討ちにした。それだけだった。そして丁度そこにあの男がやってきた。最初に遭遇したのは老婆の許より離れて10年の時。それから更に70年。…

20091112 --140

不思議と縁のある男だった。老婆の許を去ってからの80年で、三度遭遇した。また彼に関してはそれだけではない。あとで知ったが、老婆の葬儀を粛々と進めたのも、その埋葬位置を墓地の端に手配してくれたのも彼だった。その彼が、三度目の遭遇時に話しかけて…

20091112 --139

そうして年月が積み重なり、約80年が過ぎた。とある新月の晩、老婆の墓前に一人の男がやってきた。漆黒のマントの下に同じく漆黒の甲冑を纏った、黒髪が背中まである背の高い青年。花を手向け、しばし瞑目したあとに、ポツリと言った。「……守護者にならない…

20091112 --138

結局、少年と老婆の話は首都に提出された報告書数枚と一部の人間の記憶に残されるのみに留まった。当の村人達も、日を追い年を費やし代が変わるうちに墓に埋葬されている老婆のことも何故その場所なのかも忘れていった。年に一度、気がつくと置かれている花…

20091112 --137

そのイネビリアの性格はかなり特殊な部類なのだが、そこを気にしたのは政府の極一部の人間と守護者数名だけであった。一般的には「厄介なモノが世に放たれた」程度の認識しかない。人と同じプロセスで生まれようが彼らは闇の者。人ではない彼らの性格など、…

20091112 --136

墓地の端、櫨の木立の奥に老婆は埋葬された。滅多に人が来ない場所を、ルドルフは敢えて選んだのだ。彼の予想通り、他のイネビリアと違って少年が律儀な性格ならば、墓参の為に再びこの地を訪れる可能性がある。村人と鉢合わせにならないとも限らない。万が…

20091111 --135

イネビリアの少年が黙っていなくならずにわざわざ村長の前に姿を現わし、正体を明かした上で老婆の死を告げたことに、連邦政府と守護者ルドルフは同様に注目した。これは老婆を粗雑に扱った場合への警告だろう。葬儀を見守りながらルドルフは考える。(随分…

20091111 --134

それが3日前の話。今日は老婆の葬儀が行なわれた。到着した守護者ルドルフが見守る中、老婆の入った棺桶が墓地に運ばれる。従来ならばイネビリアを匿った重罪者にこのような葬儀は行なわれない。せいぜい共同墓地に投げ入れられるのが関の山だ。だがこの老婆…

20091111 --133

老婆と少年の件は、一時、連邦政府の巡回警備隊を呼ぶ程の騒ぎになった。が、当のイネビリアがどこにもおらず、匿っていた老婆も死んでいる(死因も間違いなく老衰だった)ことから、危急性無しと判断された。ただ念の為、遂行中の依頼を終え次第守護者ルド…

20091111 --132

その赤ん坊も、そうだった。月光に包まれたかと見紛うほどに美しく、淡く光った。イネビリアの誕生に、それまで歓喜に沸いていたはずの産屋が一瞬にして凍りついた。母親は泣き喚き、外にいた父親はそれを聞いて呻いた。そして、赤ん坊は父親によって何処か…

20091111 --131

生まれてきた赤ん坊がイネビリアかどうかを見分けるポイントがあった。イネビリアの場合は産まれた時に体の周りが淡く光るのだ。光った赤ん坊は直ちに殺されるか、または自ら手を下せぬ親によって捨てられた。故に、世間の拾われた子や孤児院の子に対する差…