"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

SIDE-YUI

20141026 --774

厚い雲が月光を阻んでいた。周囲を照らすのは従者が持つランプの明かりだけ。この湿度では雨がいつ降ってもおかしくない。雨除けの皮衣を背後の荷物から出しながら、騎乗の娘は遠くに聞こえる梟の鳴き声に耳を澄ます。首都を出立してからもう六日か。目指す…

20121005 --591

辺境警備隊はものの数分で壊滅した。襲撃直後に発した要請に従ってこの辺りを担当する彼らがきたのだが、その予想外に早い全滅は、たとえ増援が到着したところで、守るべき民の損壊した遺体との対面しか生み出しそうになかった。故に、彼女が現われた時の人…

20120929 --587

丸く満ちかけた月を追うように八頭立ての長距離馬車が街道を走る。天井も高く前後に長いワゴンに、しかし乗客は大柄な若い男が一人のみ。──いや、もう一人。最後尾の乗降口、そのステップに座り足を外に投げ出している金髪の少女がいた。月光を受け、長い金…

20101221 --323

月が徐々に欠けていく。それはまさしく夕闇に食われていくかのようで、ユイは固唾を呑んで見守っていた。やがてすっぽり闇に閉ざされたかと思うと、浮かび上がるのは妖艶な暗赤の月。どうしてか目が離せない。今宵の月は、あたたかな安息ではなく、凍てつい…

20101029 --310

イネビリア検査は何回受けた? ……2年前に孤児院に入ってから7 回か。それは多いね。理由に心当たりは……あるのかい。ま、あるだろうさ。軽い怪我なら一瞬、重傷でも数時間で元通りとあっちゃ。でも、本当の理由は ──。「こうやって、喋らないでも会話ができる…

20101027 --309

「そこから先に行っちゃいかん。……いずれ行けるようになる。今は我慢をし」背後に、いつからそこにいたのか、長い杖を携えた老婆が立っていた。「大体の話は聞いてるよ。孤児院から来た娘ってのはあんただね」そう言って老婆はユイについてくるように促し、…

20101027 --308

(行き止まり? でも……あれ?)壁は確かに目の前にある。あるのだが、威圧感がない。よくよく目を凝らす。するとどうだ。壁が透けていき更に奥へと続く道が見え出したではないか。「道は見えたかね?」不意に背中から声をかけられ、ユイは飛び上がらんばかり…

20101021 --306

しばらく待ってもシスターは帰ってこない。「シスター……?」残響がわかるほどの静寂と薄暗さは、幼子を心細くさせるに充分なものだった。思わずユイはシスターが立ち去った方向に歩き出した。だがいくつかの分かれ道を見落として、入り口ではない行き止まり…

20101021 --305

「こっちですよ、ユイ」シスターと共に訪れたのは、いつも遠くから眺めるだけだった大聖堂。昏倒したあの日から二日が経っていた。シスターは何か守護者がどうのと説明してくれたのだが、どうにもよくわからない。大きな扉の前で待つようにと言うと、シスタ…

20101014 --303

首都大門から程近いところに、その孤児院はあった。いつぞや公孫樹並木を眺めていた孤児が蹲って震えている。(怖い……!)心に流れ込んでくる強大な鬼気。大門からだ。何かが大門にいる。耐え切れず、遂に昏倒した。世話役のシスターが慌てて駆け寄る。「ど…

20091205 --196

暗闇を押し退け、朝焼けが街を照らす。やがて太陽が顔を見せて夜の終わりを告げた。気象予言士によると今は晴れているが昼にはまとまった雨が降るらしい。(葉が全部落ちちゃうかも。きれいなのにな)孤児院の窓から公孫樹並木の下を行く首都防衛隊を見つつ…

20091121 --162

そこは時の止まった部屋、或いは運命の揺り籠。今、息絶えようとする母親の腕の中で、徐々に冷たくなる母親に気づきもせず、幼子が安らかに眠っている。今はまだ知らぬ。今はまだわからぬ。次に目覚めた時より始まる激動の未来など。遠くで雷が鳴った。それ…