"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

守護者戦記

20111211 --486

雲間の月光がまだらに地面を染める。馬上で月を見上げる男が時折漏らす鬼気を、注意深く観察する。いっそ狂気に流されたほうが楽だと彼はここに来る途中で言った。彼をしてそう言わしめる苦痛とは。想像だにできない何かを抱えている彼を、少し離れたところ…

20111210 --485

じわりじわりと、影が月を蝕む。それは心底の奥の奥に眠る、本来の彼を象徴するかのような狂気を揺さぶる。何度これに耐えてきたかはもう数えようがない。が、何度耐えてきても一向に慣れない。毎回ぎりぎりのところで耐えている。──センは雲の間から顔を出…

20111204 --481

ロジェは黒衣の騎士の依頼を聞いた。「──以上だ。可能か?」「……ああ」内容を心の内で反復した後、答える。「その依頼、俺の全ての力を以って必ず遂行しよう」その返事に黒衣の騎士は頷いた。「宜しく頼む。しかして、報酬だが」そう言うと彼は手を差し出し…

20111122 --479

「イネビリアからの依頼に問題あるか? って言ったら、そりゃあるさ。守護者はイネビリアと戦うからな。だけどあんたはこの世界のモンじゃない。そして誰にも手を出してなさそうだ。何よりこの世界のあんたは守護者、俺の同僚だ。だからあんたからの依頼は受…

20111115 --477

黒衣の騎士は、ロジェに意外な質問をしてきた。「……守護者は、個人からの依頼も受けているか?」「おう。公的なやつ優先だが、個人からの私的な依頼も受けてるぞ。もちろん最高級──第1級守護者への依頼だから報酬もそれなりに貰うことになるが。って、なんだ…

20111115 --476

縁側から出て黒衣の騎士の横に並ぶと、ロジェは月を見上げた。「いい月だよなー。ったく、月を愛でつつのほほんと酒呑んでたかったのに」とんだ邪魔が入ったもんだと毒づくが、声色には嫌悪感も悪意もない。「……まあいいや。そんで? 話があるからここに来た…

20111114 --475

ふと、酒器を口に運ぶ手を止めた。待月堂縁側、センが出て行った後も一人呑んでいたロジェである。杯を盆に戻すと、縁側の前にある池のほとりを見遣った。今の今まで誰もいなかったほとりに、黒衣の騎士が姿を現わしたのはその数瞬後。「よう」驚く風もなく…

20111112 --472

黒衣の騎士は去った。夜に、闇に、掻き消えるように。『別の世界の我ら』と彼は言った。(それは、恐らく……)ユイは騎士の言葉を心の中で反芻しながら視線を館内に転じた。その先の絵の中では、少女が変わらず微笑んでいる。月の光のせいだろうか。少しだけ…

20111112 --471

「小さき守護者、慈愛満つる大地に愛されし御子よ。いかなる時も水の如く寛容たれ。万難に際しては勇気の火を心に燈せ。然らば自由なる風が汝を正しき運命に導きたもう。汝が行く末に祝福を。……我も、この世界の我も、別の世界の我らも、皆、汝の歩む枝の先…

20111112 --470

言葉を発して初めてユイは自分が泣いていることに気がついた。恐怖からではない。悲哀でもない。目の前の騎士の心底から響き続ける慟哭、あの寂寥感の源。それが僅かに緩んだのだ。それほどのものを抱えた彼の心が少しでも希望を見出せた、それに対する安堵…

20111112 --469

桜月館に着いたユイは、既にセンがどこにいるか知覚できていた。そこに行くなら外を回ったほうが早い。(それにしても)戸惑う。場所が、あの肖像画の前なのだ。そしてその戸惑いは到着した時に更に深まる。内側から窓が開かれた。その先で、全く同じ顔がふ…

20111104 --468

「それが進む枝先への一条の光たれるなら。そして俺もまた、この邂逅を俺が積む可能性に重ねよう」「……感謝する」センの言葉に黒衣の騎士はそう短く答えた。「あ、あの」その時だ。ようやくユイが口を開いたのは。騎士が感謝を述べたと同時。まるで金縛りが…

20111027 --467

黒衣の騎士はユイの手を離すと立ち上がり、センに向き直った。「汝、可能性を見出し我よ。その可能性を我の集める希望にも積み重ねていいだろうか。来し方幾千の年月、しばしつかむものなく鈍っていた歩み、わずかながら軽くなるだろう。今ここに来たは符丁…

20111027 --466

「標は点在する。いくつもの世界、いついかなる時にも。我はそれを拾い集めて可能性と希望を成す。どれほどの道のりを行けば、いつまで続ければ集め切るかは各々に科せられた運命により変わる。明日かもしれぬ。千年後かもしれぬ。……終わらぬかもしれぬ。し…

20111027 --465

「大綱の制約により、ひとつの世界に在れるはその世界の我ただひとり。他の我がいる世界へは実体を伴わぬ意識体でのみ行くことができる。また、意識の密度をより濃くすれば実体のごとき振る舞いも可能となり、このように触れられるのだ。ただし干渉はできる…

20111026 --464

黒衣の騎士は、彼を見て驚き立ち尽くすユイの前に歩み寄り、片膝を地につけて彼女の手を取った。「お初にお目にかかる。我は、この者であってこの者ではない、別の時間と世界、可能性の海を彷徨うもの」一陣の風が駆け抜けた。しかしそれはユイの戸惑いを拭…

20111013 --462

「信じてみたい可能性とは、今ここに向かっている足音の主か?」そう言いつつ黒衣の騎士は視線を外に転じた。こちらに駆け寄る小さな人影が窓越しに見える。その人影が辿り着く前にセンが窓を押し開けた。別段驚いた様子もない。彼女なら、間違いなく来るだ…

20111012 --461

「正解かどうかはわからない。しかしこの世界、この時間に、信じてみたい可能性がある。だから俺はここにいる」そう語るセンを黒衣の騎士はじっと見ている。まるでそこに希望を見出そうとしているかのようだ。「信じてみたい可能性」口の中で、黒衣の騎士は…

20111001 --452

ユイが感じ取ったのは、彼女と同一の世界にいない、しかし確実にそこに『在る』と感じられるほどの強い意識。空間の許容量を超えた何かが他空間へ何らかの現象として顕現する事例は実は少なくない。が、一個体の意識が他空間に存在を知覚させるまで干渉する…

20110930 --451

黒衣の騎士がセンに向き直る。長い黒髪が揺れた。月光に照らされて、騎士の顔が顕わになる。そこには、相対するセンと同じ顔があった。まるで鏡でも見ているかのような。身に纏っているもの以外に差異が見当たらない。「汝の求めるものが、この世界の先にあ…

20110930 --450

「消滅は免れている。なれば、必ずどこかで存在し続けているということだ。……どんな形であれ」黒衣の騎士への言葉であるのに、センは自身にも言い聞かせているようだった。普段の彼ではありえないような、切なさを伴って。「故に、汝はここにいる、のか」黒…

20110918 --437

首都防衛隊舎にいた誰よりも早く、ユイは桜月館での異変を察知した。感じられる気は、ひとつはセンのもの。しかしてもうひとつ。(……もうひとつ?)訝しく思いながらもより詳しく探る為に神経を研ぎ澄ませた瞬間、彼女の心に押し寄せたのは絶望に限りなく近…

20110913 --428

待月堂縁側。酒器を傍らに、ロジェが月を見上げる。一緒に酒を飲んでいたセンは先ほど、彼にしては珍しく一瞬驚いたような表情を浮かべ、急いで桜月館に向かった。センのことだから案ずる必要もなかろうが。「しかし、ひとりで飲むのもつまらんな……」雲ひと…

20110913 --427

桜月館、肖像画前。フランス窓越しに月光が優しく差し込み肖像画を照らす。ほのかに浮かび上がる少女の絵を、黒衣の騎士は無言で眺めていた。逆光のせいでその表情は見えない。「……一人なのか」そこへ、そう声をかけた者がいる。センだ。黒衣の騎士は答えな…

20110714 --393

しかし何故日光が入るここに絵を飾っているのか。(色が褪せるのでは)ユイは絵の正面にあるフランス窓を振り返った。ガラス越しに桜の木が見える。この館の名の由来になった、あの。「そういや」絵を見つつロジェが言った。「この絵に桜を見せてやりたいか…

20110709 --390

難しい顔で肖像画を見る男がいる。ロジェだ。何度か立つ位置を変えつつ眺めている。執務室に戻る途中のユイが気づき、声をかけた。「いかがなさいました?」「ん? ああ、この絵なー、時々気になって見に来るんだ。構図的に、右側にもうひとりいないと収まり…

20110708 --389

ふとセンが足を止めた。桜月館、例の肖像画の前である。しばし無言で眺めたあと、何事もなかったようにその場を去った。 #twnovelposted at 14:05:11

20110707 --388

肖像画の前にユイが立っている。(この人は)驚いた。大聖堂でペンダントをくれた女ではないか。(でも──)顔は同じなのだが、どこかに違和感を覚えた。(そうだ。少なくとも、こんな寂しそうじゃなかった)あの時は見る者に安堵感を湧き起こさせる笑みを浮…

20110707 --387

桜月館のひと気のない場所にその肖像画はかけられている。長い黒髪の女性で年の頃は十七かそこらか。髪と同じ黒いドレスを纏い、椅子に座ってこちらを見ている。その口元に浮かぶ儚げな笑みは見る者の心に言い様のない切なさを等しく生じさせた。この娘が誰…

20110706 --386

桜月館は大聖堂の東側にある洋館だ。敷地内に大きな桜の木が1本あり、満開に合わせるように月が上を通ることからその名で呼ばれている。守護者達の執務室があり、また首都に家を持たぬ者の官舎としても使われている。故に部屋数も多く、さながら小国の城を思…