"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

月光路

20091110 --130

海から離れ、宙に浮く。ふたりを乗せた船が下弦の月に向かってするすると進み出した。光の流れはどこまでも穏やかで、これなら無事に辿り着くとハレが言った。 ――もう米粒ほどにしか見えなくなった船は、月光路の溢れる光の中に、ゆっくりと消えていった。 …

20091110 --129

「なななな何言ってんの」動揺っぷりが凄まじい。「ハレは寂しくないのか」「あああそこで肩落とさない! 寂しい、寂しいさ。そりゃわたしもちょっと期待してたとかああもう何言わせんの」五郎左の手を取った。「いいよ。一緒に行こう。色々大変だろうけど、…

20091110 --128

世界が広がった気分だった。漁師の子に生まれ、いずれ入り江を守りながら自分もそうなると思っていたしそれに疑問も抱かなかったが、そうではない世界が在り、その世界の多様性にただただ驚いた。それにな。「ハレと離れるのも、寂しいんだよ」その言葉に月…

20091110 --127

「できたら、行ってみたい。ハレ達の住む月界に」このまま見送るに留めれば五郎左は元のこの狭い入り江の守人に戻るだけだ。助けた当初はそれでいいと思った。寧ろ厄介事を背負い込んだと後悔もした。だが今は違う。ハレから「世界」や「宇宙」、その広さの…

20091110 --126

ナミが自船で月光路を進み出す。それを見届けて、ハレは彼女の船の横にいる五郎左を振り返った。「世話になったね、五郎左。入り江に墜落したわたしとわたしの船を隠してくれたり、家に置いてくれたり。……ほんと、随分と世話になった。何かお礼がしたいんだ…

20091028 --89

その月界人はナミと言った。ハレとは幼馴染だそうだ。「カグヤ先生怒ってたよ。操船演習で月光路から転落してしかも船を壊すとか前代未聞だって」「シールドしてるはずのエンジンにまさかレゴリスが入り込んでるなんて誰も思わないよ!」「それただのメンテ…

20091028 --87

村外れの入り江の外海側、岩場にうまく隠れるようにしてその洞窟はある。「月光路って昼でも使えるんだな」入り口にいた五郎左が、空に浮かぶ昼の月を眺めながら呟いた。「光が足りなくて安全ではないから、本当は夕方を待つものなんだけどね」修理に使う道…

20091019 --65

新月を過ぎ、途絶えた月光が僅かに溢れ出す。光流がゆっくりと反転して地球への月光路が現われ始めた。ハレは空を見上げる。視線の先には並んだ星が三つ。「お、住吉三神だな」「この季節はあの近くで流星雨が起こるの。月光路に影響するかもしれない」隣に…

20091011 --40

下弦の月を見て月界人のハレは嘆息する。結局、船は直らなかった。修理に必要な部品は月界の仲間が次の上り月光路で持って来てくれることになったのだが。「ハ、ハレ、あまり興奮するな。顔が兎っぽくなってるぞ」囲炉裏の前で五郎左は気が気ではない。兎顔…

20091004 --19

満月と新月の時、月光路は使えないとハレは言った。光が強過ぎるもしくは弱過ぎるせいで発生しないらしい。更に引力がどうとか光学理論がどうとか言っていたが、五郎左にはさっぱりだった。「とは言え、船の修理が済まないと次の下弦の月光路に乗れないのよ…

20091002 --15

「上弦が上り、下弦が下り。わかりやすいでしょ」月界人の女「ハレ」が味噌汁をうまそうに飲む。頭から生えている兎の耳に酷似している2本のそれは飾りではない。興味本位でそれを引っ張った時の事を思い出し、五郎左は囲炉裏の前にいるのに背筋に寒気が走っ…

20090926 --4

月光路。月輝く夜、ごく稀に月と海を光の道が繋ぐ。月界の船が月とこの世界とを行き来する時に顕れるらしい。今宵、上弦の月よりのびたる光に乗り、一艘の船がゆぅらり下りてきた。村外れの入り江でそれを見た青年は後に語る。まさか己がその船で月に向かう…