"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

20091114 --145

何故話がしたいと言ったのか。興味や好奇心という単語も当てはまるのだが、その時ルドルフの心を最も占めていたのは、目の前にいるイネビリアから覚える違和感だった。その闇い魂もビリビリと迫る鬼気も、間違いなく彼が人間ではなくイネビリアであることを…

20091113 --144

「礼を言われるようなことでもないんだが」ルドルフはぽりぽりと頭を掻いた。「では、失礼する」「あ、待ってくれ」辞そうとしたところを呼び止められ、今度はこちらが怪訝な顔をする番だった。「少し話がしたい。……構わんか?」イネビリアと話がしたいとは…

20091113 --143

驚くのも無理はない。彼の「時」は正しく流れ、俺の「時」はある程度のところで止まった。《人の内に生きる闇》イネビリアとは、しかしそういうものなのだ。人のようでいて、人とは違う。「……知ったのが数年前だったので、それまで2度も会っていたのに礼も言…

20091113 --142

男は守護者ルドルフと名乗った。そうか、この男が。「守護者ルドルフ、あなたに会えたら礼を言おうと、思っていた」男が怪訝な顔をするので説明を加えた。「80年ほど前のことだ。俺を匿い育てたあの人の葬儀で……世話になった」ルドルフは驚いて言葉が出ない…

20091112 --141

大陸北部のとある地下迷宮。その魔物を倒したこと自体に理由はない。調べ物をしていたら急に襲い掛かってきたので返り討ちにした。それだけだった。そして丁度そこにあの男がやってきた。最初に遭遇したのは老婆の許より離れて10年の時。それから更に70年。…

20091112 --140

不思議と縁のある男だった。老婆の許を去ってからの80年で、三度遭遇した。また彼に関してはそれだけではない。あとで知ったが、老婆の葬儀を粛々と進めたのも、その埋葬位置を墓地の端に手配してくれたのも彼だった。その彼が、三度目の遭遇時に話しかけて…

20091112 --139

そうして年月が積み重なり、約80年が過ぎた。とある新月の晩、老婆の墓前に一人の男がやってきた。漆黒のマントの下に同じく漆黒の甲冑を纏った、黒髪が背中まである背の高い青年。花を手向け、しばし瞑目したあとに、ポツリと言った。「……守護者にならない…

20091112 --138

結局、少年と老婆の話は首都に提出された報告書数枚と一部の人間の記憶に残されるのみに留まった。当の村人達も、日を追い年を費やし代が変わるうちに墓に埋葬されている老婆のことも何故その場所なのかも忘れていった。年に一度、気がつくと置かれている花…

20091112 --137

そのイネビリアの性格はかなり特殊な部類なのだが、そこを気にしたのは政府の極一部の人間と守護者数名だけであった。一般的には「厄介なモノが世に放たれた」程度の認識しかない。人と同じプロセスで生まれようが彼らは闇の者。人ではない彼らの性格など、…

20091112 --136

墓地の端、櫨の木立の奥に老婆は埋葬された。滅多に人が来ない場所を、ルドルフは敢えて選んだのだ。彼の予想通り、他のイネビリアと違って少年が律儀な性格ならば、墓参の為に再びこの地を訪れる可能性がある。村人と鉢合わせにならないとも限らない。万が…

20091111 --135

イネビリアの少年が黙っていなくならずにわざわざ村長の前に姿を現わし、正体を明かした上で老婆の死を告げたことに、連邦政府と守護者ルドルフは同様に注目した。これは老婆を粗雑に扱った場合への警告だろう。葬儀を見守りながらルドルフは考える。(随分…

20091111 --134

それが3日前の話。今日は老婆の葬儀が行なわれた。到着した守護者ルドルフが見守る中、老婆の入った棺桶が墓地に運ばれる。従来ならばイネビリアを匿った重罪者にこのような葬儀は行なわれない。せいぜい共同墓地に投げ入れられるのが関の山だ。だがこの老婆…

20091111 --133

老婆と少年の件は、一時、連邦政府の巡回警備隊を呼ぶ程の騒ぎになった。が、当のイネビリアがどこにもおらず、匿っていた老婆も死んでいる(死因も間違いなく老衰だった)ことから、危急性無しと判断された。ただ念の為、遂行中の依頼を終え次第守護者ルド…

20091111 --132

その赤ん坊も、そうだった。月光に包まれたかと見紛うほどに美しく、淡く光った。イネビリアの誕生に、それまで歓喜に沸いていたはずの産屋が一瞬にして凍りついた。母親は泣き喚き、外にいた父親はそれを聞いて呻いた。そして、赤ん坊は父親によって何処か…

20091111 --131

生まれてきた赤ん坊がイネビリアかどうかを見分けるポイントがあった。イネビリアの場合は産まれた時に体の周りが淡く光るのだ。光った赤ん坊は直ちに殺されるか、または自ら手を下せぬ親によって捨てられた。故に、世間の拾われた子や孤児院の子に対する差…

20091110 --130

海から離れ、宙に浮く。ふたりを乗せた船が下弦の月に向かってするすると進み出した。光の流れはどこまでも穏やかで、これなら無事に辿り着くとハレが言った。 ――もう米粒ほどにしか見えなくなった船は、月光路の溢れる光の中に、ゆっくりと消えていった。 …

20091110 --129

「なななな何言ってんの」動揺っぷりが凄まじい。「ハレは寂しくないのか」「あああそこで肩落とさない! 寂しい、寂しいさ。そりゃわたしもちょっと期待してたとかああもう何言わせんの」五郎左の手を取った。「いいよ。一緒に行こう。色々大変だろうけど、…

20091110 --128

世界が広がった気分だった。漁師の子に生まれ、いずれ入り江を守りながら自分もそうなると思っていたしそれに疑問も抱かなかったが、そうではない世界が在り、その世界の多様性にただただ驚いた。それにな。「ハレと離れるのも、寂しいんだよ」その言葉に月…

20091110 --127

「できたら、行ってみたい。ハレ達の住む月界に」このまま見送るに留めれば五郎左は元のこの狭い入り江の守人に戻るだけだ。助けた当初はそれでいいと思った。寧ろ厄介事を背負い込んだと後悔もした。だが今は違う。ハレから「世界」や「宇宙」、その広さの…

20091110 --126

ナミが自船で月光路を進み出す。それを見届けて、ハレは彼女の船の横にいる五郎左を振り返った。「世話になったね、五郎左。入り江に墜落したわたしとわたしの船を隠してくれたり、家に置いてくれたり。……ほんと、随分と世話になった。何かお礼がしたいんだ…

20091110 --125

イネビリアは闇の者ながらその魂を人に宿らせ、人の子と同じように生まれる。生まれて間もなくは何の力もない赤ん坊で、発覚次第捨てられるか殺された。それは成人したイネビリアが行なってきた数々の殺戮が原因であり、赤ん坊の「処理」については政府も黙…

20091110 --124

それは少年の力だった。闇の者である彼の、《人の内に生きる闇》――イネビリアである彼の、更に彼にしか使えぬ空間を操る力。己が身守るを第一とした、「赤ん坊の彼」が無意識に行使した世に二つとない力。そしてそれは老婆をも守る力となった。イネビリアを…

20091110 --123

村人達は老婆の家を何度も訪れていたが、村長宅に少年自身が来るまで、その存在に誰一人気づかなかった。他に誰かいるような気配が無かったからである。実は、彼らが訪ねていたのは実際の老婆の家ではない。そこに被せて造られた、別の空間に存在するもう1…

20091109 --122

そして彼らは知る。老婆は一人暮らしだと思われていたがそうではなかった。古ぼけた箪笥に子供服が仕舞われていた。そのサイズは徐々に大きくなり、大きくなるほどに新しい。最後は、そう、村長宅を訪れたあの少年に合うものだった。あの少年はここで老婆と…

20091109 --121

朝になり、村長と数人の男達は手に手に武器を持って老婆の家に向かった。扉を叩くも返事はない。意を決して開く。何か襲い掛かってくるようなこともなく、ただ静寂であった。はたして奥の部屋のベッドに老婆は横たわっていた。村長達は目を瞠った。老婆の周…

20091109 --120

夜、見知らぬ少年が村長宅を訪れた。驚く村長に構わず、少年は老婆が老衰で死んだ旨を伝え、弔いに必要な金額より遥かに多い金を置いて立ち去った。去り際の言葉に、村長はその顔色を真っ青に変えざるを得なかった。「捨て置かれて死ぬはずだった、イネビリ…

20091109 --119

その老婆が村外れに居を構えたのは17年前。放浪の旅をこの地で終えたいとのことだった。村人に反対する者も無く、老婆は無事安住の地を得た。占いを生業とし、良く当てた。その老婆が、3日前に死んだ。 #twnovel posted at 21:24:22

20091109 --118

街道沿いにある荒れた礼拝堂の前で、置き去りにされた赤ん坊が泣いていた。そこに、家族を戦乱で亡くし失意の中で旅をする老婆が通りかかった。静謐を破り、軋みながら歯車が回り出す。それは間違いなく、運命であった。 #twnovel posted at 21:13:51

20091109 --117

青年のようでいて未だ幼さが勝る面立ちの少年は、自らの死に際でなお彼の心配をする老婆の手を優しく握った。彼の正体を知りながらそれでも拾い育ててくれた彼女に対する、精一杯の感謝だった。たとえ彼女の孤独を埋める為の慰みだったとしても、注がれた愛…

20091109 --116

お前がお前の運命を是とすることも否とすることすらも、既に神の定めたもうたものと決して思わないでおくれ。運命を決めるのは常にお前自身の意思なのだよ。忘れないでおくれ。……そしてどうか、お前を残して死ぬ婆を許しておくれ。この17年、出て行かずにい…