"twinovels" di senzaluna

自分が書いたtwnovelなどのまとめ

奏国史楽

20130722

川から引き上げられた少女は記憶喪失で何処の誰ともわからない。手がかりは唯一覚えているという詞無き歌。村人に請われて少女は歌う。えもいわれぬ旋律に皆心を奪われた。やがて歌い終えた少女は涙した。その歌こそ時止めの歌、聞く者の心を奪い時を止めて…

20120122 --499

暮れ時の鐘は明け時のそれより遥かに強く撞き鳴らされる。音の届く範囲が結界される為だ。もちろん、これから妖魔跋扈する夜の到来を告げる為でもある。辻ごとに音叉が設置されており、響き渡ってきた音を増幅させる。範囲になるとはいえ効力が薄まりがちな…

20110226 --335

いざや歌え、始原と終焉の言祝ぎ 笛を吹き、琴を掻き鳴らし、鈴を振りて供奉とせよ 遍く世の端の端 生きとし生ける全てのものの心の奥の奥 強く、されど優しき慈悲の音で満たさん 其は世界を創り給いし奏神が本願なりせば (奏国史楽 序曲『奏神讃歌』より一…

20091014 --53

歩奏(あるきかなで)と呼ばれる奏侶がいる。都から飛び出し、諸国を念律を唱え廻り、狂弦退治や五穀豊穣の奉奏等を行なう者達だ。嘗て奏皇の落胤と噂された歩奏がいた。その力はなるほど噂されるに相応しいもので、長らく拍州で暴れていた狂弦を一夜で倒し…

20091009 --33

「昨晩ここらで見失ったのだ」数珠を巻いた琵琶に札を貼る。「日がある内は楽器に戻る。見つかって何よりだ」「奏都!」そこに鼓を携えた奏兵が数人駆けてきた。「これが昨日の奴だ」奏都は琵琶を奏兵に渡し女に向き直った。「弾いたら魂を食われていた。こ…

20091009 --32

女は歌茂川沿いで古い琵琶を拾った。胴に朱で何か書かれているがよくわからない。不思議に思い、一緒に落ちていた撥で弾こうとした。刹那、その腕を掴む法衣の老人。「やめなさい。これは狂弦だ」老人は琵琶を受け取り、数珠を巻きつつ言った。「最近この辺…

20091007 --28

「大奏正より陽鈴の御皇威賜りたいとの上奏!」奏院に緊張が走る。ここひと月雨が続き、遂に都の東を流れる歌茂川が氾濫し出した。直ちに奏皇による奏祓の儀が執り行なわれ、民は久し振りの陽光に歓喜した。「三足烏の陽鈴」は遍く大地に恵みを齎す神鈴、調…

20091004 --18

累々たる死屍の傍、少女は思い出した。以前辿り着いた村でも自分の歌で人々が死んだのを。故に忘却の川に身を投げたのを。何故忘れられない? 世の全てを呪う母から末期の言葉代わりに聞かされた、死の歌を。何故自分は死なず、死を振り撒いている? 答えは…

20091004 --17

通称「月琴」、正しくは「待宵の月琴」は調廷三宝の一つで、普段は奏院の最奥に奉ぜられている。初代奏皇が奏神より下賜されたという伝承がある撥弦楽器だ。年に一度奏院で行なわれる「観月の儀」で使用されるのだが、楽器自体にどういう力があるのかは未だ…

20090929 --7

大奏正が操る笛は、普段は「雨笛」と呼ばれているが、正しくは「篠つく雨笛」と言う。調廷の初代奏皇がこの地を奏神より与えられた際、最初に踏み入れた地にて光る竹を見つけ、それを以て作らせた。一息吹けば激しい雨を呼ぶ。また、邪悪なるものを洗い流す…

20090925 --2

「狂弦曰く、奏都では相手にならぬ。大奏正を連れて来い、と」伝令の青ざめた顔が現場の壮絶さを物語る。近頃都を騒がす、文字通り不協和音にて人を殺める狂弦の頻出は奏院の奥におわす弦皇の耳にも届く大事に発展していた。伝令の言葉を受け、大奏正は傍ら…

20090925 --1

川で助けられた少女には記憶が殆どなかった。唯一覚えていたのは詞無き歌。空に溶け風誘うように響く旋律に、皆心奪われ聞き入った。歌い終え、少女は涙した。聞く者全てが息絶えていたのだ。少女が唯一覚えていた歌こそ、時止めの歌。聞く者の時を止め死を…